2019年 11月 05日
僕たちのチェイン・ストーリー(前編) |
「ハギさん、ボーカルもうちょい上げたほうがいいかも」

いーはとーゔのサウンドチェックを見ていたヒョンレは、 PAの萩野さんにそう伝えていた。僕は耳を疑った。自分たち以外の音響のことなんて気にしないタイプのヒョンレなのに。一方、ガンホは最前列の椅子に腰掛けて彼らを凝視しピクリとも動かなかった。20年越しのライバル登場にリハーサルの現場は静かに、そして厳かに湧き立っていた。
2019年11月4日。三連休最終日、スチョリは今年8月にリリースしたニューアルバム『SINGER SONGWRITER』リリース記念のイベントを開催した。集まったのはチョウ・ヒョンレ、キム・ガンホ、PiCas(岩城一彦、谷口潤、吉岡孝)の5人。場所は梅田ムジカジャポニカ。そして東京から話題のバンド、いーはとーゔを迎えて、という内容。ルーツミュージックを愛する東の若者と西の初老が相見える夜。一大イベントと言って差し支えないだろう。
ラリーパパ&カーネギーママのツインボーカルとパイレーツ・カヌーの男性チームがドッキングした今回の編成。アコースティック・サウンドを主体としたサウンドは、言わばアメリカーナでありスワンプロックやシンガー・ソングライターに代表されるルーツロックでもある。さらにジャズやブルースのエキスも注入しながら現在進行形のルーツロックを体現、あるいは模索していた。スチョリとヒョンレの声が交わるとき。それはジョンとポールに似ている。つまり聴く者の耳を、心を瞬時にして鷲掴みにする。今夜もお客さんの耳と心を鷲掴みにする。リハーサルの序盤から僕は確信した。
リハーサルの終盤、いーはとーゔがムジカジャポニカに到着した。僕はベースの菊地くんとは1年ぶりだったんだけど、他のメンバーに会うのはこの日が初めてだった。会いたかったバンド。全員の顔を見て「いーはとーゔ!!」と叫んでしまった。握手をしたり抱擁をしたり強引に写真を撮ったり。僕の熱量に少し戸惑ったことだろう。でも僕はもう押さえが効かない状態だった。だって会いたかったんだからしょうがない。彼らの演奏を生で見たかったんだからしょうがない。
嬉しいことにいーはとーゔ(特に菊地くん)はラリーパパに影響を受けていると公言してくれている。リハーサルを見ながら「やべー!本物だー!」「うわーうわー」などと声を漏らしていた。
しかしこの10分後、僕たちは彼ら以上に感嘆の声を連呼することになる。
(中編へつづく)

by goodtimemusic
| 2019-11-05 12:03