2019年 11月 07日
僕たちのチェイン・ストーリー(後編) |
「こんばんは。スチョリ&チョウ・ヒョンレ with PiCasです!」

スチョリの挨拶のあと、吉岡孝のどっしりとしたセカンドラインドラミングが鳴り響く。ラリーパパ&カーネギーママ時代の「どこへ行こう」でライヴがスタートした。
"大きく窓を開けて いつかは叶うはずさ"
スチョリとヒョンレが重なり合う歌い出し。レスポンスするかのように客席から歓声が飛んでくる。会場のボルテージが一気に上がった。その盛り上がり方はいーはとーゔのときとは少し違うのが印象的だった。「待ってました!」というニュアンスといえばいいだろうか。続く「夏の夜のブルース」はスチョリのアルバム『ムーン・カントリー』収録曲。柔らかくも芯のあるスチョリならではのボーカル、PiCasの3人による抑制の効いた演奏がフロント2人を包み込む。この曲に限らず、リハーサルのときよりも肩の力が抜けた5人の演奏は丸みを帯びたサウンドへと昇華していた。
ドブロギター&バンジョー:岩城一彦、ベース:谷口潤、ドラムス:吉岡孝、ボーカル&ギター:チョウ・ヒョンレ、ボーカル&ピアノ:スチョリ。詰め込みすぎない音数、つまり引き算の美学。ラリーパパ楽曲、スチョリとヒョンレのソロ曲、そのどれもが絶妙の余白を残していたことは特筆すべきだ。
本編でのラリーパパ・クラシックスは冒頭の「どこへ行こう」と「終わりの季節に」「路上 ON THE ROAD」の3曲。そしてスチョリとヒョンレのソロ曲の対比もこの夜ならでは。ブルージーなヒョンレ、洒脱なスチョリ。似て非なるボーカリスト2人を存分に楽しめたんじゃないだろうか。
スチョリの「みんなのうた」で本編は締めくくられ、5人はステージを降りる。代わってガンホがステージに上がる。「今日はありがとうございました!」と満面の笑みで叫ぶ。どうやら酔っ払っているようだ。ステージに戻った5人から「帰れ!」と激しいツッコミが入る。とはいえ、アンコールの3曲はガンホも加入しての6人編成での演奏だった。役者は揃った。ところがガンホは1曲目の「心象スケッチ」でイントロを引き間違えてしまう。それも2回も。業を煮やしたヒョンレは強引に歌い始めた。"泣きのスローバラード"が笑いに包まれて始まる。しかしそれでは終われない。エンディングのギターソロでガンホは序盤のハプニング全てを帳消しにするプレイを披露。いい夜だ。ライヴならではの筋書きのないマジカルな瞬間があちこちに散りばめられていた。
続く「夢を見ないかい?」ではスチョリはもちろん、ガンホと岩城もボーカルを披露。ゴキゲンなソロ回しで多幸感溢れる世界を描く。そしてアンコールのラストは「黒猫よ、待て!」だった。イントロで客席が湧き立つが、一瞬の静寂があった。これは僕の想像だけど、おそらく感極まった人が多かったのではないだろうか。大地を揺るがすようなスチョリとヒョンレのシャウト、ハイライトはいくつかあるが「黒猫よ、待て!」はこの日最大のハイライトだ。ドブロギターを弾きながら終始笑顔だった岩城がそれを象徴している。
僕たちのチェイン・ストーリー。
今回のイベントを企画したスチョリ。案はいくつかあった。ヒョンレと弾き語りツーマン、PiCasとのバンド編成でのライヴ。そしていーはとーゔを大阪に呼ぶことも考えていた。さかのぼること2年前の春、いーはとーゔの菊地くんはスチョリに「ダ・ボン -素晴らしき日々-」をカバーしたいと直々に連絡したという。快諾したスチョリだったが、そのときはいーはとーゔのことをほとんど何も知らなかった。 その後菊地くんがスチョリのライヴを観るために大阪までやって来て音源を渡し、いつか共演しようということになった。
僕たちのチェイン・ストーリー。
今年の夏、『レインボーヒル』主催(首謀)松沢さんからラリーパパ&ファウンデーションに出演オファーがあった。ただし「昔の曲を半分以上やれ」という条件付きだった。ヒョンレは渋々その条件を飲むが、同時に松沢さんに条件を出した。「東京にいーはとーゔっていういいバンドがいるから、レインボーヒルに呼んでくれ。今年じゃなくてもいいから」と。松沢さんからは「俺知らんバンドやから一回ムジカでやったら観に行くわ」という返答だった。そこでヒョンレはスチョリにいーはとーゔを大阪に呼びたいと相談する。
絡み合う2人の想い。それぞれの道を歩きながらも同じようなことを考えていた。相思相愛、あるいは腐れ縁、はたまた阿吽の呼吸。どれでもいい。どれも当てはまる。いずれにしても面白い2人だ。
スチョリとヒョンレのチェイン・ストーリーはピリオドが打たれた。しかし新たに別の物語、アナザー・ストーリーが始まったのかもしれない。

by goodtimemusic
| 2019-11-07 05:50