2014年 05月 19日
福生ストラット Part 3-1 |
2014年5月17日。
福生を訪れるのはこれで3回目となった。
大滝詠一ゆかりの地。
日記のようにそのことを書いておきたい。そう思う。
=================
梅田スカイビルから発車した夜行バスが新宿に到着したのは5月17日(土)の午前8時5分。都庁のすぐ近くだった。10時間近く狭いバスに乗っていたせいで、身体はずいぶんとこわばっていた。まず風呂に入りたい。あるいは熱いシャワーを浴びたい。手っ取り早いのはインターネット・カフェだ。そう思って新宿の中心部へ歩を進める。しかし週末の朝。いくつか当たってみたが最低でも1時間は待ち時間が必要だった。土地勘もない、これ以上ほかを当たるのも待っているのも時間がもったいないと判断し、新宿から青梅線に乗って福生へ向かうことにした。イヤホンからは「趣味趣味音楽」が流れている。
新宿を出てからほぼ1時間が経過した午前9時56分、福生駅に到着。改札を出てから儀式をひとつ。"福生からの切符"を買う。もちろん帰りの切符とは別のもの。お守り用としてだ。切符の日付は26.-5.17。時間はちょうど10時で印刷されている。
14年ぶりの福生駅前は大きなスーパーマーケットができていて、以前よりも景色が変わったように思えた。空気を思い切り吸い込む。そして吐く。西口を出て喫煙スペースで煙草に火をつける。煙を肺に送り込む。そして吐き出す。午前10時だというのに陽射しはまるで夏のようだ。
3月31日の朝日新聞に「伊藤銀次さんとたどる大瀧詠一の哲学」という記事が掲載されていた。この中に出てくる「カフェ・ド・ノエル」にまず行くことを決めていた。コピーしておいた新聞記事を確認しながら、福生駅から東へ向かう。歩幅を大きくしたり小さくしたり。そして練り歩くように。
ほどなくして国道16号線沿いにあるカフェ・ド・ノエルに着いたが、店の中は暗い。扉も閉まっている。調べてみると午後1時からの営業だった。カフェというからには午前中からやっているだろうと思っていた。小腹を満たすためにモーニングを、とも思っていた。ろくに調べもしなかったのが悪かった。まあいい、時間はたっぷりある。あとでまた来ればいい。16号線を北に歩いていくことにした。次に向かうのは福生市の北側に位置する瑞穂町。ここの図書館を目指す。
瑞穂町図書館では今年1月から、この町に大滝詠一の自宅があるということで、特別展示が行なわれていた。遺族の方が提供されたTシャツやエプロン、町民の方がもらった直筆のサインなどが期間限定で展示。そんなニュースを見ていた。しかし今もやっているのかどうか定かではない。電話すればすぐにわかったが、そういうことはしないと決めていた。行きたいと思ったのだからシンプルに行動する。
国道16号線をひたすら北へ歩く。太陽が高くなってきた。リュックを背負った背中に汗がにじんでいる。飲み物を買おうと思ったが、なかなか自動販売機がない。そこで妻が出発の夜に渋る僕を無視して、クリスタルガイザーをリュックに入れていたことを思い出す。反省と感謝をしながら喉を潤して、地図を確認する。図書館までの道のりはまだまだある。
カフェ・ド・ノエルから1時間近くは歩いただろうか。箱根ヶ崎という駅に着いた。ここからさらに北東へ進むと瑞穂町図書館はある。足の裏が少しじんとする。これ以上歩き続けると今日の予定にも影響が出るかもしれないと思い、駅前の小さなロータリーからタクシーに乗ることにした。「瑞穂町の図書館まで」。そう告げると運転手はアクセルを踏み、ためらうことなくタクシーを走らせた。
箱根ヶ崎駅からワンメーターで図書館に到着した。住宅街の中を抜けて少し坂を上がったところに図書館はあった。小説や映画に出てくるような特別な佇まいではない。いわゆる町の図書館的佇まい。裏には小高い山があり、スカイホールというものもあった。そして図書館のすぐ隣りには中学校があって、グラウンドでは野球部が大きな声を出しながら練習している。それ以外の音は聞こえてこない。
館内に入るとすぐに「Niagara」と書かれたサイン色紙が飾られていた。そう、展示はまだ行なわれていたのだ。色紙の横には額縁に入ったサイン入りのシングル「幸せな結末」もある。そして入り口すぐの右手側にはTシャツが3枚と『EACH TIME』のロゴとジャケットがデザインされたエプロン。しばらくまじまじと眺めていた。
受付の女性に展示品の撮影をしてもいいか尋ねると「構いませんが、個人で楽しむためだけでお願いできますか?インターネットなどには載せないように皆様にはご協力いただいているんです」と告げられた。もちろん承諾し、シャッターを切っていると、館長が奥から出てきてくれた。「実は明日が展示の最終日なんです。間に合ってよかったですね。それと、ここに来たファンのみなさんにはメッセージを書いていただくノートがあるんです。後日、遺族の方にお渡しして目を通してもらうことになっているので、そちらもぜひいかがですか」とのことだった。
ノートは2冊。1冊は全てのページがメッセージで埋め尽くされている。2冊目も3分の2くらいはメッセージが記されている。好きな曲、出会ったきっかけなど、思い思いのメッセージでいっぱいだ。しばらくページをめくって読みふける。リュックからBICのペンを取り出して、シンプルに書く。シンプルに。奇をてらったことを書くつもりはない。"しるし"をつけるような感じでペンを走らせた。
図書館を出て、腕時計を見ると午後12時を過ぎたあたり。午前中に訪れたカフェ・ド・ノエルに電話をしてみたが誰も出なかった。営業時間は午後1時。きっとのんびりした店なんだろう。この日の僕のスケジュールとしては、福生を離れるタイムリミットは午後3時。その時間に電車に乗らなければならない。まだ3時間近くはある。
再び歩いていると、遠くのほうでバスが走っているのが見えた。バスに乗れれば、そして福生駅に向かうバスであれば、時間を短縮できるし身体を休めることができる。バス停を探しながら歩いているうちに箱根ヶ崎駅に着いた。バスが止まっているじゃないか。すぐに発車しそうだったので慌てて飛び乗る。行き先は福生駅東口までだった。
乗り始めて10数分、終点のひとつ手前の福生病院という停留所に着く直前に電話が鳴る。番号は未登録の携帯番号だった。それは図書館を出てからかけた番号、つまりカフェ・ド・ノエルからの折り返しの電話だった。
(つづく)
福生を訪れるのはこれで3回目となった。
大滝詠一ゆかりの地。
日記のようにそのことを書いておきたい。そう思う。
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梅田スカイビルから発車した夜行バスが新宿に到着したのは5月17日(土)の午前8時5分。都庁のすぐ近くだった。10時間近く狭いバスに乗っていたせいで、身体はずいぶんとこわばっていた。まず風呂に入りたい。あるいは熱いシャワーを浴びたい。手っ取り早いのはインターネット・カフェだ。そう思って新宿の中心部へ歩を進める。しかし週末の朝。いくつか当たってみたが最低でも1時間は待ち時間が必要だった。土地勘もない、これ以上ほかを当たるのも待っているのも時間がもったいないと判断し、新宿から青梅線に乗って福生へ向かうことにした。イヤホンからは「趣味趣味音楽」が流れている。
新宿を出てからほぼ1時間が経過した午前9時56分、福生駅に到着。改札を出てから儀式をひとつ。"福生からの切符"を買う。もちろん帰りの切符とは別のもの。お守り用としてだ。切符の日付は26.-5.17。時間はちょうど10時で印刷されている。
14年ぶりの福生駅前は大きなスーパーマーケットができていて、以前よりも景色が変わったように思えた。空気を思い切り吸い込む。そして吐く。西口を出て喫煙スペースで煙草に火をつける。煙を肺に送り込む。そして吐き出す。午前10時だというのに陽射しはまるで夏のようだ。
3月31日の朝日新聞に「伊藤銀次さんとたどる大瀧詠一の哲学」という記事が掲載されていた。この中に出てくる「カフェ・ド・ノエル」にまず行くことを決めていた。コピーしておいた新聞記事を確認しながら、福生駅から東へ向かう。歩幅を大きくしたり小さくしたり。そして練り歩くように。
ほどなくして国道16号線沿いにあるカフェ・ド・ノエルに着いたが、店の中は暗い。扉も閉まっている。調べてみると午後1時からの営業だった。カフェというからには午前中からやっているだろうと思っていた。小腹を満たすためにモーニングを、とも思っていた。ろくに調べもしなかったのが悪かった。まあいい、時間はたっぷりある。あとでまた来ればいい。16号線を北に歩いていくことにした。次に向かうのは福生市の北側に位置する瑞穂町。ここの図書館を目指す。
瑞穂町図書館では今年1月から、この町に大滝詠一の自宅があるということで、特別展示が行なわれていた。遺族の方が提供されたTシャツやエプロン、町民の方がもらった直筆のサインなどが期間限定で展示。そんなニュースを見ていた。しかし今もやっているのかどうか定かではない。電話すればすぐにわかったが、そういうことはしないと決めていた。行きたいと思ったのだからシンプルに行動する。
国道16号線をひたすら北へ歩く。太陽が高くなってきた。リュックを背負った背中に汗がにじんでいる。飲み物を買おうと思ったが、なかなか自動販売機がない。そこで妻が出発の夜に渋る僕を無視して、クリスタルガイザーをリュックに入れていたことを思い出す。反省と感謝をしながら喉を潤して、地図を確認する。図書館までの道のりはまだまだある。
カフェ・ド・ノエルから1時間近くは歩いただろうか。箱根ヶ崎という駅に着いた。ここからさらに北東へ進むと瑞穂町図書館はある。足の裏が少しじんとする。これ以上歩き続けると今日の予定にも影響が出るかもしれないと思い、駅前の小さなロータリーからタクシーに乗ることにした。「瑞穂町の図書館まで」。そう告げると運転手はアクセルを踏み、ためらうことなくタクシーを走らせた。
箱根ヶ崎駅からワンメーターで図書館に到着した。住宅街の中を抜けて少し坂を上がったところに図書館はあった。小説や映画に出てくるような特別な佇まいではない。いわゆる町の図書館的佇まい。裏には小高い山があり、スカイホールというものもあった。そして図書館のすぐ隣りには中学校があって、グラウンドでは野球部が大きな声を出しながら練習している。それ以外の音は聞こえてこない。
館内に入るとすぐに「Niagara」と書かれたサイン色紙が飾られていた。そう、展示はまだ行なわれていたのだ。色紙の横には額縁に入ったサイン入りのシングル「幸せな結末」もある。そして入り口すぐの右手側にはTシャツが3枚と『EACH TIME』のロゴとジャケットがデザインされたエプロン。しばらくまじまじと眺めていた。
受付の女性に展示品の撮影をしてもいいか尋ねると「構いませんが、個人で楽しむためだけでお願いできますか?インターネットなどには載せないように皆様にはご協力いただいているんです」と告げられた。もちろん承諾し、シャッターを切っていると、館長が奥から出てきてくれた。「実は明日が展示の最終日なんです。間に合ってよかったですね。それと、ここに来たファンのみなさんにはメッセージを書いていただくノートがあるんです。後日、遺族の方にお渡しして目を通してもらうことになっているので、そちらもぜひいかがですか」とのことだった。
ノートは2冊。1冊は全てのページがメッセージで埋め尽くされている。2冊目も3分の2くらいはメッセージが記されている。好きな曲、出会ったきっかけなど、思い思いのメッセージでいっぱいだ。しばらくページをめくって読みふける。リュックからBICのペンを取り出して、シンプルに書く。シンプルに。奇をてらったことを書くつもりはない。"しるし"をつけるような感じでペンを走らせた。
図書館を出て、腕時計を見ると午後12時を過ぎたあたり。午前中に訪れたカフェ・ド・ノエルに電話をしてみたが誰も出なかった。営業時間は午後1時。きっとのんびりした店なんだろう。この日の僕のスケジュールとしては、福生を離れるタイムリミットは午後3時。その時間に電車に乗らなければならない。まだ3時間近くはある。
再び歩いていると、遠くのほうでバスが走っているのが見えた。バスに乗れれば、そして福生駅に向かうバスであれば、時間を短縮できるし身体を休めることができる。バス停を探しながら歩いているうちに箱根ヶ崎駅に着いた。バスが止まっているじゃないか。すぐに発車しそうだったので慌てて飛び乗る。行き先は福生駅東口までだった。
乗り始めて10数分、終点のひとつ手前の福生病院という停留所に着く直前に電話が鳴る。番号は未登録の携帯番号だった。それは図書館を出てからかけた番号、つまりカフェ・ド・ノエルからの折り返しの電話だった。
(つづく)
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by goodtimemusic
| 2014-05-19 11:20